Blog 真っ青な空

企業を定年退職したエンジニア、科学技術コンサルタントやってます。

触媒(3)

触媒という材料の将来に向けた可能性について前回書きました。

 

触媒と環境は切っても切れない関係。
触媒がなくては環境は維持できない。

 

その触媒に期待されるのは、やっぱり再生可能エネルギーの領域。


ずばり、CO2と水を原料にして、太陽エネルギーを活用する形で化学品を合成する技術、ですね。

 

触媒は魔法の粉、これを振りかけるだけで今までできなかったものができるようになる、だから期待される。

 

blue2020.hateblo.jp

 

 

 「e-fuel(イーフューエル)」、クルマ向けの燃料(人工ガソリン)についてその必要性を書きました。

 

blue2020.hateblo.jp

 

しかし現状では、e-fuelの製造コストは高く、1リットルあたり500円。
コスト削減には、炭化水素鎖を合成する製造法であるフィッシャー・トロプシュ(FT)反応を改良する必要があり、そのために新しい触媒が必要とされているとのこと。

 

その触媒の現状について調べてみました。

 

フィッシャー・トロプシュ反応は、触媒(鉄やコバルト等)を用いる化学反応で、1920年代にドイツのフランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュによって発明された。石油資源を持たないドイツで石炭ガスから液体炭化水素を合成するため開発されたもので、第二次世界大戦中にはドイツや日本で合成燃料の生産に応用された。本来は以下の化学反応式であるが、現在では、多数の類似の化学反応が開発され、フィッシャー・トロプシュ合成あるいはフィッシャー・トロプシュ化学といわれる分野となっている。石炭や炭素を含む廃棄物等の様々な固体を原料とした液体炭化水素の生成に応用されている。
    CH4 + (1/2)O2 → 2H2 + CO
     (2n+1)H2 + nCO → Cn H2n+2 + nH2O

 

 フィッシャー・トロプシュ法 - Wikipedia

 

まず、これがフィッシャー・トロプシュ反応で、触媒には鉄やコバルトが使われています。もともと石炭を液体燃料に変換できるという反応なので、理論的には、石炭よりも環境に優しい代替物質(例えばバイオマス)も液体燃料に変換できる可能性があるのですが、その実現に向けた研究の成果はこれまでのところ、効率が悪く、そもそも石油と競争できるほどの低価格が実現できていないのが実情だそうです。

 

FT法は、ガスをそのまま変換する、あるいは固体(石炭やピーナッツの殻をすりつぶしたものでもよい)から生成したガスを変換する点では優れているのだが、生成物に幅があり、ほとんどの場合、メタンなどの軽油から重質のワックスまでのさまざまな合成石油生成物のブレンドとなる。最も有用なガソリン、ディーゼル燃料、航空燃料(灯油)は、その中間に位置するため、分離、精製する必要がある。そのため、これらの燃料の大規模なFT合成は通常2段階プロセスで、それによりコストと複雑度が増し、環境汚染が深刻化している。

それ故、FT法を使った合成液体燃料の商業生産は、原料価格が極めて低い場合(中国には石炭を処理する生産施設がある)、または手段が他にない場合(南アフリカではアパルトヘイト政策の時代、経済制裁を受けて石油を輸入できず、同国のサソール社はFT法を用いた石炭液化技術を開発)に限られる。

 

 

そんな状況を踏まえ、富山大学の研究チーム(椿範立(つばき・のりたつ))は、使用する触媒(多孔質材料のゼオライトに、コバルトナノ粒子と希土類助触媒を担持させたもの)の組成を微調整することで化学反応を制御し、目的の液体燃料を選択的に合成で切ることに成功した。例えば、選択率74%のガソリンまたは選択率72%のジェット燃料を生成。鉄やコバルトを二酸化ケイ素や酸化アルミニウムに担持させた触媒を用いる従来のプロセスではこれまで、FT合成で選択率50%超の生成物を得ることは無理だった。しかし、障壁の打破は、もう少し先の話だ。ゼオライト系触媒は失活しやすく、上記論文によれば燃料の合成は、指ぬきサイズの反応器の中でわずか1gの触媒を使って行われた。このプロセスの経済性向上には、このプロセスをもっと長い間安定的に実施し、100t以上の触媒を使える反応器にスケールアップする必要がある。この研究を率いた富山大学大学院の化学者、椿範立(つばき・のりたつ)は、このプロセスを用いるとFT反応から灯油やガソリンを初めて「ワンステップ」で直接合成できる可能性が生まれる、つまり、高収率なので分離段階が不要になることがこのプロセスの大きな利点だという。

また、担持型FT商業触媒ではコバルト含有量が重量比で30~40%ですが、今回の発見により5~10%以下まで削減することが可能だそうです。

 

www.jst.go.jp

 

 

従来、問題とされてきたフィッシャー・トロプシュ反応の課題(コスト)が新しい触媒によって解決されるかもしれません。

 

カーボンニュートラルな人工ガソリンができるかもしれません。
そして、それができればクルマは内燃機関/エンジンのまま使うことができます。

 

新しい触媒の出現が、地球の将来まで左右しそうです。

 

触媒(3)(終わり)