Blog 真っ青な空

企業を定年退職したエンジニア、科学技術コンサルタントやってます。

カーボンリサイクル(8)

前回(カーボンリサイクル(7))で、「e-Fuel」とは何か? ということを書きました。今回は、より具体的に、その実態、内容について調べてみます。

 

先行していると言われてるアウディの動きです。

アウディは2018年3月9日、再生可能エネルギーを使って合成燃料「e-benzin(e-gasoline)」を生産し、テストエンジンを使った評価に着手したと発表

独Global Bioenergiesと共同で、過去最大となる60Lのe-gasolineを生産できた。e-gasolineには硫黄とベンゼンが含まれていないため、燃焼時に汚染物質が少ないという特徴がある。原油に依存せず、既存のインフラと互換性があり、クローズドカーボンサイクルを実現できるという。テストエンジンを用いてe-gasolineの燃焼/エミッション特性を評価したところ、非常に優れた耐ノッキング性を確認できた。e-gasolineを利用すれば、エンジン圧縮比をさらに高めて効率を向上できる可能性があるという。e-gasolineは、本質的に液体イソオクタン(C8H18)バイオマスを原料として、まずはガス状のイソブテン(C4H8)を製造し、次に水素を加えてイソブテンをイソオクタンに変換して生産している。今後は、再生可能エネルギーから生産される十分な量のCO2と水素を原材料として、バイオマスを使わずにe-gasolineを生産できる体制の構築を目指すことになる。e-gasolineは、アウディが推進するe-fuel戦略の一環として開発されたもの。

図2 Audiはいち早くe-fuelに着目

E-Fuels: Eine trügerische Hoffnung | ZEIT ONLINE

 

同社は他にも、e-gasやe-dieselといったCO2を原料とする燃料の開発を進めている。具体的な成果も出し始め、再生可能なe-gasを2013年から市場に提供している。例えばアウディ圧縮天然ガスCNG)車であるg-tronモデルを利用した場合、CO2排出量を従来の内燃エンジンと比較して最大80%削減可能だ。アウディはe-gasの一部を、電力をガスに変換するドイツの “power-to-gas”プラントで生産し、公共の天然ガス網に供給している。アウディg-tronモデルのドライバーは、CNGステーションで通常の燃料代と同程度のコストでe-gasを購入可能。e-gasを利用すれば、購入分に相当するCO2排出量の削減につながるという。

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2018年のe-Fuelは、バイオマスを原料につかって、液体のイソオクタンを作っています。あと、e-gasと称しているのですが、メタン(天然ガス成分と同じ)と思われるガスを水素と二酸化炭素から製造しています。これは、従来の天然ガス車にそのまま使うことができます。

 

一方、日本企業。

水素の液体燃料e-fuelへ。トヨタ勢がAudiを追い始める。2020年07月13日

「e-fuel(イーフューエル)」とは、水を電気分解したH2とCO2を触媒反応で合成した液体の炭化水素鎖(燃料)のことである。つまり水素を利用した液体燃料である。水素は、再生可能エネルギーを利用して生成することができるため、水素自動車と同じくe-fuelでも「カーボンニュートラル(炭素中立)」が実現可能である。しかし現状では、e-fuelの製造コストは高く、1リットルあたり500円である。コスト削減には、炭化水素鎖を合成する製造法であるフィッシャー・トロプシュ(FT)反応を改良する必要がある。

 

 

フィッシャー・トロプシュ反応 ;フィッシャー・トロプシュ反応は触媒(鉄やコバルト等)を用いる化学反応で、1920年代にドイツのフランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュによって発明された。石油資源を持たないドイツで石炭ガスから液体炭化水素を合成するため開発されたものである。第二次世界大戦中にはドイツや日本で合成燃料の生産に応用された。本来は以下の化学反応式であるが、現在では、多数の類似の化学反応が開発され、フィッシャー・トロプシュ合成あるいはフィッシャー・トロプシュ化学といわれる分野となっている。石炭や炭素を含む廃棄物等の様々な固体を原料とした液体炭化水素の生成に応用されている。
    CH4 + (1/2)O2 → 2H2 + CO
   (2n+1)H2 + nCO → Cn H2n+2 + nH2O

 

2018年のアウディの技術では、バイオマスを使っていましたが、やはり最終的には、二酸化炭素と水素からe-Fuelを工業的に作る必要があります。その場合、フィッシャー・トロプシュ反応を利用するしかなく、その低コスト化が、大きな課題となります。おそらくアウディもその改良を続けているものと思われますが、ただ、このような化学工業の領域で自動車メーカーがやれるのかというと非常に疑問です。まず、基礎研究として、新しい触媒の開発から進めてゆく必要があるし。

 

しかし、この場面、
新しい技術開発を行う大きなチャンスなのかもしれません。

 

カーボンリサイクル(8)(終わり)

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